土葬

日本では土葬というのは早くに廃止されてしまったと思っている人が多いようだが、そんなことはない。私がもっとも最近に見た土葬は1993年(平成5)のことである。
1992年と1993年は母方の曾祖母と祖父が相次いでなくなった。曾祖母は家から、祖父は寺で葬儀をおこなった。曾祖母も祖父も寝棺であった。曾祖母は、家から寺の脇にある埋め墓まで1km程を葬列を組んで歩いた。ひ孫は赤い御幣を持つということなので、葬列の先頭近くで私を含め9人のひ孫が赤い御幣を持って墓*1までいった。
穴を掘るのは村の隣保の人である。その人たちが事前に穴を掘っている。墓場で最後のお経をあげると近い親族以外は皆帰って行く。近い親族で棺にひとすくいずつ土をかけると、あとはすべて村の人がしてくれる。埋葬が終わるまで寺で待って埋葬が終わってから親族だけで曾祖母が埋められた場所へいった。そこで般若心経をあげることの出来る大叔父が般若心経をあげて拝んで家へ帰った。
祖父の時は、男の孫が棺桶を担ぐことになっているので、私と男の孫3人くらいと助の親戚数人が寺から墓地まで棺桶を担いで行った。座敷から草鞋を履いて、頭には幽霊のつけているような三角の紙*2をつけて、白いカタビラを着て棺を担いだ。墓まで行くと、あとは曾祖母の場合と同じである。
93年からしばらくは土葬がおこなわれていたと思うが、いずれにせよこの頃が土葬が行われた最後であろう。
この他にも、本家の大叔母の葬儀は中学の時なので、1989年とかその辺りになるが、この時は座棺だった。ゼンノツナを曳いて墓まで向かった。墓についてから最後のお別れということで棺に菊の花を入れたことを覚えている。ここでも穴を掘るのは村の人なので、埋葬には親族は関与しない。
座棺は、棺に人をおさめるためには、からだを折り曲げなければならない。しかし、死人のからだはかたまっているのでボキボキいわして折り曲げないといけないので辛いそうだ。
一番古い記憶では、3歳の時、すなわち1978年に本家の大叔父の葬儀があった。雨が降っていた記憶がある。私は、ミニチュアの鍬を持って葬列に参加したという覚えがあるが、それ以上は記憶にない。
2004年、隣家のおばさんが亡くなって隣保として葬儀の手伝いに参加した。もう土葬は行われていなかった。火葬と土葬では引導の渡し方が異なるらしい。土葬では、最後に導師が鍬のミニチュアで棺をカーンと叩いてその鍬を後ろに放り投げるという所作があるが、それがつくりものの松明になるようだ。
93年以降、私は大学に入って下宿をしたため村を離れてしまった。93年以降の変化は残念ながら知ることは出来ない。しかし、私の地元のこの十数年の変化はきわめて大きい。それを見ることが出来なかったのは無念である。

*1:ちなみに、両墓制なので、ここの墓は埋葬墓。

*2:なんちゅうもんや?