元一橋大学長の阿部謹也さん死去

2006年09月09日17時58分

 「ハーメルンの笛吹き男」など、中世ヨーロッパの社会史を扱った著作で知られる歴史学者で元一橋大学学長の阿部謹也(あべ・きんや)さんが4日、急性心不全のため東京都新宿区の病院で死去した。71歳だった。葬儀は近親者で済ませた。喪主は妻晨子(あさこ)さん。後日、お別れの会が開かれる予定。

 35年、東京生まれ。中学時代にカトリック修道院で生活したことなどから西欧の中世社会史に関心をもつ。74年、子供たちを連れ去る笛吹き男の物語を核に、中世ヨーロッパの庶民の生活を浮き彫りにした「ハーメルンの笛吹き男」を出版し、注目を集めた。

 ヨーロッパの被差別民に目を向けた「刑吏の社会史」、定住民と遍歴の民の交錯を描いた「中世を旅する人びと」(サントリー学芸賞)などの話題作を次々と発表。故網野善彦氏らとともに、社会史・中世史ブームの中心人物となった。

 また、独立した個人が構成する「社会」とは異質な「世間」をキーワードに、「『世間』とは何か」などで独自の日本文化・社会論を展開した。

 94〜95年に本紙書評委員。本紙連載を基にした「中世の窓から」で81年に大佛次郎賞。97年に紫綬褒章。92年から一橋大学長、97年から国立大学協会長、99年から共立女子大学長を務めるなど、大学の組織改革にも精力的にかかわった。

 「阿部謹也著作集」(全10巻)がある。
http://www.asahi.com/obituaries/update/0909/001.html