横溝正史の生原稿5000枚、旧宅で発見 未発表も

2006年10月11日17時07分

 金田一耕助が活躍する探偵小説「八つ墓村」「犬神家の一族」などの作家、横溝正史(1902〜81)の生原稿や下書きなど約5000枚が見つかった。研究者にも知られていない短編「霧の夜の出来事(微笑小説)」が含まれている。雑誌に発表した短編を仕立て直した長編、単行本のページを切り抜いて施した加筆などもあり、粘り強く書き直しを続けた横溝の執筆姿勢が浮かび上がる貴重な資料だ。

 東京・世田谷の横溝の旧宅奥にある物置などで昨年見つかった。長男で音楽評論家の亮一さんは「母が集めていた古い着物や端切れが入っていると思っていた箱から、生原稿が出てきて驚きました。別の段ボールも合わせると4箱にもなった」と話す。

 「霧の夜の出来事」(200字詰め原稿用紙66枚)は、自殺しようと薬局に青酸カリを買いに行った男が、どたばたを経て薬局の薬剤師の女性と結ばれる物語。1枚目に横溝が編集長を務めていた雑誌「新青年」の判が押してあるが、横溝研究者の浜田知明さんによると同誌には掲載されておらず、未発表の原稿と思われるという。ミステリー評論家の新保博久さんは「筋に無理があるなどあまりいい出来ではないと横溝が判断し、自ら掲載を取りやめたのではないか」と推測する。

 長編に仕立て直されていた短編は、「人形佐七捕物帳」シリーズの「番太郎殺し」や、金田一耕助ものの「日時計の中の女」など。前者は200字詰めで337枚の長編となっていた。浜田さんは「『悪魔の百唇譜』などを62年に長編化した時のスタイルと似ており、その前後の手直しではないか。社会派ミステリーの台頭で横溝作品の人気が落ちていた時期で、比較的時間があったのだろう」とみている。

 金田一ものでは「香水心中」「首」などを、東京文芸社から72、73年に出た単行本のページを切り抜いて補筆し、完全版にしようとしていた。

 5000枚の原稿のほかにも、自作が原作となった映画やラジオのシナリオ約150点や、ミステリー洋雑誌約300冊などが見つかった。亮一さんは近く東京・神田神保町古書店「三茶書房」を通じて売りに出すが、公共機関や大学などの一括購入を望んでいる。
http://www.asahi.com/culture/update/1011/015.html