「渓谷だ」「いや峡谷」呼び名は? 丹波竜発見の谷筋

2007/06/16




名称で揺れる川代の谷間。右下の発掘現場は、秋の2次調査まで表面がコンクリートで固められている=丹波市山南町上滝

 丹波市山南町上滝地区の篠山川の岩場が、大型草食恐竜の化石発見地として公表されてから、約半年。一帯の山あいの谷筋の名称について、地域住民が長年親しんできた「川代渓谷」に対し、市が学術的観点を重視して「川代峡谷」と呼ぶなど、“混乱”が目立ってきた。日本初の「全身骨格発見」への可能性の高まりを背景に、呼称統一を求める声が上がっている。(太中麻美)

■揺れる2説 「全国発信へ統一を」
 「渓谷」とは広く谷間を指す言葉。「峡谷」は河川が山地を浸食してできた、険しいV字谷を指す。

 川代渓谷(峡谷)は、篠山盆地から流れる篠山川沿いにあり、篠山市大山下から丹波市山南町にかけての約十キロ。地殻変動で隆起したり褶曲(しゅうきょく)したりした岩肌があちこちにあり、急流に削られた奇岩も多数見られる。

 渓谷説を推すのは、県柏原土木事務所や丹波市観光協会。「峡谷と呼ぶべきという声があるのは知っているが、住民が親しんでいる名称を使っている」という。地区住民は「昔から、大人たちが渓谷と言い、子どもも自然にそう呼んでいた」。

 同土木事務所は、川代公園沿いの県道の土砂止め壁に「川代渓谷」の字を大きく彫り込んだ。印刷物などにも「渓谷」の文字が見られる。

 一方、峡谷説を主張するのは、五十年以上地質調査を続ける同市氷上町の地学研究家荻野正裕さん(77)ら。

 荻野さんは篠山川の成り立ちについて「約二万年前までは、篠山盆地の水は南の武庫川に注いでいたが、次第に土砂でせき止められ、西側の加古川の支流に流れ込むようになった。この激流が深い谷を作った」との説を紹介し「地学的には明らかに峡谷」という。

 発掘当初、丹波市恐竜を活かしたまちづくり課のパンフレットは「渓谷」と「峡谷」の両方を使っていたが、最新版では「峡谷」に統一した。

 同課は「発掘は数年がかりになり、全国的に注目される。地学のフィールドワークの舞台としてもアピールしたい。そのためにも、学術的な観点をおろそかにできないと判断した」という。

 歴史と伝統のある名称を継続するのか、学術的観点から変更するのか。議論の行方はまだ見えない。
http://www.kobe-np.co.jp/kobenews/sg/0000390035.shtml