お墓の引っ越し増加 帰郷は負担、近くで供養

2007年09月22日23時11分

 あすはお彼岸の中日。古里のお墓が気になっていませんか? 都会での暮らしが長くなり、遠い古里への墓参りは体力的にも経済的にも負担になった。地元に残った身内も高齢だったり、他界していたり――。そんな人たちが続々と自分たちの住居に近い都市部にお墓を引っ越し(改葬)させています。でも、公的手続きが必要で費用もかかります。そんな手間も念頭に置いておく必要があるようです。

 ■新幹線や宿泊代などで数十万円

 「両親の墓を遠い青森に残しておくのはつらかった。今はいつもそばにいられる。一安心です」

 東京都町田市の東光寺ふじみ墓苑。今月15日、お彼岸を前に訪れた同市の建築士田邊定弘さん(76)は、6月に引っ越した墓を前にほっとした表情を浮かべた。

 田邊さんは長く青森市で暮らしてきたが、息子が東京で家庭を持ち、「肉親が近くにいたほうが安心」と7年前に息子家族の近くに転居した。その後も、青森へのお盆の墓参りは欠かさなかったが、「息子家族も合わせ、新幹線や宿泊代など数十万円。時間も片道だけで4時間かかる」。

 青森に残る姉も89歳の高齢で墓守は頼めない。「いっそ墓を持ってこよう」と、「家から近い場所」を条件に車で約10分の墓地に決めた。

 費用は墓の撤去や運搬、新たな墓地の永代使用料など計約470万円。「最初は移すことなど考えもしなかったが、苦労して育ててくれた父が建てた墓。きちんと供養したい」

 新たに墓を建て、遺骨だけを移す「引っ越し」もある。

 さいたま市の主婦(43)が、鹿児島県内にある両親の墓を移そうと思ったのは長男を出産した3年ほど前。一人っ子で「直系の墓守」だが、幼い子ども連れの墓参りは体力的に厳しい。地元で墓守をしてくれている叔母には持病があり、申し訳ないと思った。

 今の自宅近くの市営霊園の抽選に外れ続け、探し回った末、6月に民営霊園に決めた。これを機に自分たち夫婦の分もつくろうと、新しく「両家墓」を建てた。費用は計約280万円だった。

 改葬許可証の申請などに手間がかかったが、今月初めに引っ越し完了。「月1回は来られる。よかった」という。

 ■05年度は前年度の4割増

 お墓の引っ越し先に、先祖や自分の個別墓を改めて設けるのではなく、永代供養墓を選ぶケースもある。先祖や将来亡くなった後の自分の骨つぼと、他家の人たちの骨つぼを一緒に一定期間安置。その後、地下に埋葬され、寺に供養してもらう。

 東京都江戸川区の妙泉寺では16日、都内で暮らす男性(65)が両親と祖父母の遺骨を、神奈川県小田原市の墓から同寺の永代供養墓に移す法要が営まれた。兄が亡くなり、男性が墓の承継者だが、娘は結婚、息子に子どもはいない。「将来の承継者がおらず、子どもに墓守の面倒をかけたくない」と言う。

 永代供養推進協会(東京)によると、永代供養墓は全国に約1000。20年〜30年の骨つぼの安置と供養で、平均約40万円という。永代供養墓への引っ越しの相談は2年前から急増し、約1000件に上る年間の相談件数のうち約9割を占めるという。

 亡くなってしばらくは個別墓に遺骨を納めてもらう。月日がたち子どもや親類など供養してくれる人がいなくなったら永代供養墓に遺骨を移してもらう――。こんな引っ越しも増えているという。東京都新宿区の南春寺の墓を生前予約した今井米子さん(74)は「初めから他人と一緒だと、残される娘もお参りしにくいようです」。

 厚生労働省によると、改葬件数は97年度から6万〜7万件台だったが、05年度は前年度の約4割増の9万6380件になった。葬送ジャーナリストの碑文谷創さん(61)は理由として、(1)高度成長時代に地方から都市に就職した世代が定住し高齢になった(2)少子高齢化で故郷に墓守がおらず、いても身内の結束が弱まった――などを挙げ、さらに増えるとみる。

 墓石業者約400店でつくる「全国優良石材店の会」(東京)が今年、地方出身で都会で暮らす団塊世代の改葬事例について加盟店にアンケートをしたところ、「大幅に増えた」が約17%、「増えた」は約77%に達した。

 墓石販売大手の「メモリアルアートの大野屋」(東京)は、昨年12月から延べ20カ所でお墓の引っ越しセミナーを開いた。参加者は団塊世代ら約600人。今では墓の申込件数全体の約2割を「引っ越し」が占めるという。
http://www.asahi.com/life/update/0922/TKY200709220173.html